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土木建設の現場が、魅力のある仕事だということを伝えたい

重機オペレーターの魅力とは
今村社長:重機オペレーターになったきっかけは?
Kaori:今から8年前、主婦をしていた29歳の時に、お掃除の仕事でパートに出ていた建物の横で工事をしていたんです。自然破壊反対なので最初は嫌だなと思ってみていたのですが、次第に工事現場で働く重機のかっこよさに魅了されてしまったんです。ビルの上から工事現場が少しずつ完成されていく様子を毎日、見ているうちに、職場に行くのが楽しみになりました。で、「あの重機に乗りたい」と本気で思うようになってしまったのです(笑)。
今村社長:でも、そう感じてから実際に重機オペレーターになる人はそうはいないですよね?
Kaori:そうですね。仕事終わりにコンビニに行ったら、たまたま、いつも見ている重機に乗っている運転手さんに会って、しかも目があってしまったんです。運命ですね(笑)。私は勇気を出して、「私、その重機に乗って仕事をしてみたいんです」って話したんです。そうしたら、とても優しい運転手さんで「資格を取れば仕事ができるよ」といろいろアドバイスしてくれて。で、私は、家に帰って、その資格を取る勉強を始めたんです。
今村社長:すごい行動力ですね。僕なんか気がついたら工事現場の中で育っていたんでその感覚はわからないんですが、どのへんが魅力的だったんですか?
Kaori:パートの休憩時間にビルの上から見ていたので、地中深くまで掘削したり、あっという間に土を運んだりといったダンプやショベルカーのパワフルで繊細な動きに夢中になってしまいました。しかも人によって重機の操り方が違うんです。私がコンビニで話をした運転手さんは、ダイナミックな動きが得意で、もうひとりの重機オペレーターは、丁寧で繊細な作業が得意。私はダイナミックな運転手さんのファンだったんです。
今村社長:もともと昔から乗り物とか車の運転とかに興味があったんですか?
Kaori:いや全く無いです。当時7歳だった息子が働く車のミニカーを持っていましたが、一緒に遊んだりしませんでした(笑)。旦那は車のディーラーで働いていましたが、車自体に私が関心を示したことはないですね。過去を振り返っても、中高生の時はサックスに夢中でしたし、父は普通のサラリーマン、母もパートを掛け持ちしている主婦。なぜ突然、重機に夢中になったかは自分でもよくわからないのですが、〝私は絶対にあの重機をうまく乗りこなせる〟という自信があって、その未来の絵を頭の中で描くことができたんです。
今村社長:ご家族から反対はされなかったんですか?
Kaori:義母からは「なんでもっときれいな仕事をしないの?」と言われました。その時は、なんで私が運命的に出会った憧れの仕事を「汚い」っていうの?と思いましたが、むしろ、そう言われたことで、絶対に重機の運転が上手になってかっこいい仕事だと理解してもらおうと決心が固まりましたね。いまはとても応援してくれています。
今村社長:資格試験を取るのは簡単でしたか?
Kaori:まだ子どもが2歳にもなっていなかったので、長時間預けて、5日間ほどかかる講習での取得は不可能でした。そこでまず、大型特殊免許の一発試験を5回チャレンジして取得したんです。1回目は車のドアの開け方すら、わかりませんでした(笑)。
今村社長:チャレンジャーですね(笑)。免許をとって、どうやって仕事を始めたんですか?
Kaori:コンビニで話をした運転手さんに合格を報告したら、その運転手さんが喜んで、彼の会社を紹介してくれたんです。そして事務兼重機オペレーターとして雇って頂き、置き場でユンボ(ショベルカー)を使った残土の処理作業とかをやらせてもらえるようになりました。
今村社長:はじめてユンボを運転した時にどう感じましたか?
Kaori:これがユンボに乗った時の視界なのかと感動しましたね。運転手さんからユンボに乗った時に見える風景を写メで送ってもらっていましたが、実際に目の前に広がる風景は格別で、夢が現実になった瞬間でした。
今村社長:その後、置き場ではなく、現場デビューするわけですが、現場は時間に厳格に動いていますし、最初は大変だったと思います。プレッシャーはありませんでしたか?
Kaori:それが全くなかったんです。ついに夢の舞台に立ったという感動がプレッシャーに勝っていたんでしょうね。それよりも自分がやりたい作業のイメージが次々と湧いてきたんです。まずはユンボで土をダンプに積み込む作業がしたくてたまりませんでした。積み込むだけじゃなくて積んだ土をユンボでならす。いかにきれいに積むかが職人の腕の見せどころなのです。これができた時の感動は一生忘れません。

肉体的なハンデは感じないが、トイレ問題は女性にとって大きい

どうすれば女性が現場で働けるのか
今村社長:重機オペレーターになるために生まれた申し子ですね(笑)現場ではまだ女性作業員は少ないと思いますが、苦労されていることはありますか?
Kaori:最初は、女性作業員を受け入れる環境がまだ十分ではありませんでした。例えば、1万坪ぐらいある大きな資材置き場でユンボに乗って作業してたのですが、トイレがなかったんです。ですから仕方なく、物陰に隠れて用を足していました。それを知った社長さんが置き場にトイレを作ってくれて、電気と水道まで完備してくれました。苦労というより、皆の思いやりに感謝の日々です。
今村社長:女性が働くことで、職場の環境や雰囲気が変わるんですね。
Kaori:男性作業員の方々もトイレができた時は大喜びでした。皆が口々に「かおりちゃんが来てくれて、社長も人が丸くなった」と言っていました。現場に出るようになってからも、男性と比べて肉体的なハンデを感じることはないですね。ただトイレ問題は女性にとっては大きいと思います。新しい現場に清潔なトイレが有るだけで心が軽くなります。
今村社長:今はなぜ、独立してフリーの重機オペレーターとして活躍されているんですか?
Kaori:働かせて頂いていた会社が、現場工事を受注しない方針に変わってしまったんです。入社時からとても良くしていただいたので悩んだのですが、置き場でユンボを動かす仕事だけだと、自分のスキルが上がらないので、思い切って独立することにしました。私にとっての仕事のやりがいは、今までできなかったことを、ひとつずつできるようになること。重機の操作は、奥の深い仕事で、今も夢を一つ一つ叶えている最中です。
母として職人として、どのような高みを目指すのか
今村社長:最近、現場で自分はまだまだ成長できるなと感じたことはありますか?
Kaori:日々そう感じています(笑)。例えば、先日行った現場は、ユンボでちょっと掘っただけで水が湧いてきたんです。するとユンボはどんどん土の中に潜っていくんです。水を含んだ土を外に出すと、その土の処分代が高くなりますから、なるべくキレイなまま外に出したい。そういう事態をいかに回避するかという時に、技量が問われるんですね。でも私は、ぬかるみにはまらないようにするだけで必死でした。正解は一つではなく、その回避の仕方は、重機オペレーターによって違います。様々な経験をして、状況に合わせ、臨機応変に対応していく力が必要です。そこが面白いところなんです。今は、フリーになったので、いろいろな先輩から技術を学べるようになりました。先輩方から技術を盗むという貪欲な姿勢で現場に向かっています。
今村社長:僕も全く同じ経験がありますよ(笑)僕の場合、ユンボがぬかるみにはまり、どうにも身動きができなくなって、助けを呼びました。ベテランの方が「しょうがないなぁ、また、ハマっちゃったのか」と言いながら、周りに溝を掘って水はけを良くすると、あっという間に抜け出せたりするんですよね。奥が深い世界です。
Kaori:わかります。怖いですよね。実は体を使うだけではなく、頭を使う仕事なんですよね。甲斐組ではどのように人材を育成してるんですか?
今村社長:会社では、育成係は一人に対して同じ先輩にしています。いろいろな技術を学ぶ前段階ですので、まずは基礎を学んでもらいます。いろいろな方から学ぶとやり方が違うので初心者は混乱してしまうからです。基礎ができてようやく、いろいろな方法があると学び、自身で工夫しながら、一人前の職人になっていくと思っています。ちょっとプライベートなことになるんですが、仕事と子育ての両立は、どうされていますか?
Kaori:4年前に離婚して、今はシングルマザーとしてフルタイムで働いています。私はなるべく働いている私の姿を小さいうちから見てもらうようにしました。今は長男が中3で、下の娘が小5なので、私の仕事をよく理解してくれています。私がこうしてメディアなどに掲載されると、ふたりともとても喜んでくれるんです。最初はいつも一緒にいてあげられない罪悪感を感じましたが、自分の好きな仕事を見つけて、夢中になって働いている母親の姿を見てもらうほうが、子どもたちにとって良かったかなと感じられるようになりました。
今村社長:素晴らしいですね。現場が変わるごとに、場所も時間も違いますし、子育てをしながら働くというのは大変だったと思います。甲斐組では、今後、かおりさんのような女性が活躍できる環境を作るために、社内に託児所を開設するプロジェクトを3ヶ年経営計画に盛り込みました。もちろん男性社員のお子さんも預かる予定です。
Kaori:それは男性社員の奥さんにとっても魅力がある会社になりますね。旦那さんが子育てに理解がある会社に勤務していると、奥さんとしては本当に心強いと思います。コロナ禍で、突然、保育園がお休みになってしまい困ってしまった家族がたくさんいたと思いますし。
今村社長:「お父さんが甲斐組で働いてくれてよかった」と奥さんや家族に思ってもらえる会社にすることがとても大切だと感じています。安心して長く働ける会社にしていきたいんです。例えば、子どもの授業参観に行きたくてもなかなか有給を取りたいと言えない会社が多いと思うんです。甲斐組は、まずはボスである上司が率先して育児休暇を取る「イクボス宣言」をし、会社全体で社員の育児を応援しています。
Kaori:朝起きて、突然、子どもに熱があって学校に行けないという状況は本当に今でも困ってしまいます。甲斐組のように、社長が理解のある会社ならば、本当に安心して働けますね。
今村社長:僕は家族が病気の時には、すぐに社員に家に戻るように言っています。事務や経理といった管理部門で働いている社員だけでなく、現場で働く職人もすぐに帰宅できるようにしています。突然、誰かが急用で現場に来られない場合を常に想定して人員を配置すれば、工事がストップしてしまうなんていうことはないのです。いかに日頃から社員同士がコミュニケーションをとるかが大切なのです。少し話を変えさせてください。メディアに出演されるなど、様々な活動をされていますが、今後のビジョンをお教えいただけますか。

私は絶対にあの重機をうまく乗りこなせる〟という自信があった

重機女子“Kaori”として伝えたいこと
Kaori:私は土木建設の現場が、魅力のある仕事だということを伝えたいんです。多くの人は、私のような普通のママが、憧れてはじめられる仕事だとは思っていませんよね。過酷な肉体労働というイメージがまず浮かんでくると思うんです。私の友人に聞いても、土木建設の仕事には、「汚い」というイメージがあるようです。「きつい」「汚い」「危険」の3Kです。私がメディアに露出することで、美容やファッションに興味がある普通の女性でも、十分にできる仕事だと知ってほしいんです。ですから、泥だらけの作業着のイメージを変えたくて、ファッショナブルな作業着メーカーのモデルにも挑戦しました。とても画期的な作業着で、泥だらけの汚いイメージはなく、仕事の後に買い物や保育園のお迎えに安心していけます。
今村社長:かおりさんの活動をインターネットを通じて知り、我々企業側の経営者が襟を正して、組織と労働環境を変え、女性の受け入れ体制を整えなければいけないと今まで以上に感じています。現在、建設現場で大手ゼネコンの女性現場監督を見かけますが、土木の現場では、ほぼ女性監督は皆無です。僕は女性雇用を促進し、現場監督だけではなく、職人の育成もしていきたいと思っています。職人の世界も高齢化が進み、70代以上の離職率が上昇しています。しかし若者は増えず、常に人手不足の状態です。これを解消するために、外国人労働者を増やす方策は、どこでもやっていますが、僕は、ジェンダーフリーに舵を切って、女性労働者を増加させることを考えているのです。
Kaori:労働環境さえ整ってくれば、私のように、現場で働きたい女性はいると思うんです。子育て中でフルタイムでは働けなくても、半日働ける女性の職人がふたりいれば、現場の労働力になります。実際、昨年末に、インスタで発信をはじめたら、3人のお子さんを育てているという女性からDMで相談をいただきました。現場は男の世界でパワハラやセクハラが横行してるのではないかと心配していましたが、実際には全く逆で、申し訳なく感じるほど皆、優しく紳士的だとお伝えしました。女性でも技術を習得し、一人前の職人として認めてもらえれば、まさしくジェンダーフリーな世界に足を踏み出せるのです。また、同世代の男性会社員と同じぐらいの給与をもらえますので、シングルマザーでも安心して子育てをしながら生計を立てられます。
今村社長:かおりさんの活動に注目が集まれば、行政も重い腰を上げて、土木建設現場での女性雇用の促進に本腰を入れて取り組むかもしれませんね。これからも是非一緒に、この業界を盛り上げていきましょう。今日はありがとうございました。
Kaori:ありがとうございました。

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